視覚と学習
学習の基盤・・・読み書き計算、その前に。
学習というと、学校の勉強を思いうかべます。そして子どもの基礎学力は、読み書き計算と考えがちです。しかし実は、子どもにとって、そうした学習を可能にするさらに基盤となる視覚や聴覚などの知覚機能の発達が必要とされます。
視覚や聴覚の発達に問題なく発達してきた子どもたちは、いざ就学時に文字の練習や数の操作が登場してきても、それまで取り入れてきた経験や記憶を利用しながら、新しい知識を容易に自分のものにできるでしょう。
しかし、発達には個性があります。ここでは、もし子どもが、視覚からの情報の取り入れに問題を抱えている場合、学習上どんな困難があるかを考えてみましょう。
自分が見ている世界というのは、その時々の瞬間に見えていることだけを情報として成り立っているのではありません。過去の経験や体験から培われた記憶を照合して、見えているものが何であるかを理解しているのです。見て理解できてこそ、多くの情報の中から、最も重要とされる事柄を判断でき、それに集中することができるのです。こうした視覚のメカニズムがうまくいかないと、見えていても意味を持たず、今何を扱うべきか分からない。どう行動したらよいのか分からないといったことが起きます。
【1】視覚に問題がない場合
【2】視覚に問題がある場合【日常生活で】
【3】視覚に問題がある場合【学習面で】
【4】視覚と学習障害
【1】視覚に問題がない場合
視覚に何の問題もない子どもにとって、見ながら、または自分の記憶としての視覚情報を操りながら、日常のほとんどの作業は、自然で容易なことです。たとえば教科書や黒板に漢字のお手本があれば、見たとおりに自分でも書けばいいし、先生が示した体育の実技もそのしぐさを真似て、練習をつめばよいでしょう。
視覚に問題のない人にとっては、目的をもった行動や運動が、あまりに自然に自動的にこなせるので、こうしたことができて当たり前のように感じられます。それは自分が見ている世界を、安心して信じることができ、その上で判断し、行動することが可能だからです。
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【2】視覚に問題がある場合
視覚に問題がある場合を考えると、視覚の重要性がわかります。
【日常生活で】
子どもの視覚に問題があると、日常生活で、様々な失敗をしかねません。朝の着替えでうっかりすると、ボタンを掛け間違うし、部屋からキッチンへの階段から落ちないためには、細心の注意が必要かもしれません。朝食にはソーセージをフォークで突いてお皿から転がすし、おまけに手前にあったミルクを突き倒すかもしれません。周囲の人が、あたりまえのようにこなしているこうしたしぐさの一つずつに、模大で細心の注意とストレスを必要とします。
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【3】視覚に問題がある場合
【学習面で】
子どもの視覚に問題があると、学習面では、図形や絵を見ても、それが何を意味しているのかといった理解が苦手です。たとえば図形なら、線がどう引かれて、あるいはどう交わっているのかという構造を、つかめない場合があります。それが文字であれば、正確に書けない、覚えられないということになります。
また、文字が形態として把握できても、言葉に関する概念がないと、意味が読み取れません。「お」と「か」と「あ」と「さ」と「ん」が読めるだけではなく、「おかあさん」 という単語として、その意味がイメージされないと文章は読めません。ある人は自分のお母さんの顔を思い浮かべるかもしれません。それが、やさしいお母さんの顔であるかもしれないし、たまたま昨日叱られたときの、怖い顔のお母さんかもしれません。また、ある人は物語の中のシンデレラのお母さんを思い浮かべるかもしれません。いずれにしてもこれらすべては、その人の見たもの経験したものから築かれたイメージです。
見たもののイメージを言葉と結びつけることができないと、自らその言葉を使うことは難しいことです。またイメージが抱けない対象に対しては、何度も同じものを見ているにもかかわらず、見るたびに驚いたり怖がったりしなくてはなりません。それが危険なものなら、毎回改めて判断をすることになり、手遅れとなりかねません。
このようにイメージが豊かでなく、ものに対して豊かな概念が培われていないと、本を読むにもたどたどしくなり、あるいはどうにか読めても内容がわからないといったことが起きます。
また、視覚に問題を抱えていると、作業や運動も一苦労です。学校でノートに黒板の字を写そうにも、どこを写しているのか分からなくなるので、へとへとです。字を書こうにも漢字が覚えられないのでは、テストは恐怖です。体育の時間には、跳び箱の前で、どこにどう手をついたらいいのか迷っていると足が止まり、そこまで転ばないように必死に走って来たのに、がっかりするかもしれません。
そして視覚に問題があれば、当然、適切な対象への集中力も乏しくなってしまいます。
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【4】視覚と学習障害
視覚の問題は、学習障害(learning disabilities:以下LD)として現れることが、まれではありません。LDの概念は 1999年文部科学省(当時文部省)により、『基本的には全般的な知的発達には遅れは無いが、特定の能力の習得と使用に著しい困難を示す様々な状態を指すもの』 と示されています。
また、注意欠陥多動性障害(ADHD)や自閉症などの広汎性発達障害と、LDは、別のカテゴリーですが、その併発は多いとされています。
LDの子どもたちは、一見、標準的な同世代の子どもと変わりはありませんが、とても難しい課題がこなせるかと思えば、それよりも容易と思われる内容のことが、遂行できなかったりします。そのため、努力が足りない、あるいは怠けていると勘違いされがちで、不毛な叱責を受けることも多い様子です。
LDの背景には、視覚だけではなく様々な要因があります。
しかし、視覚になんらかの問題を持つ場合、視覚認知発達の検査をとおして、各子どもの固有のつまずきの原因を見出し、発達を促す支援に役立つことができれば幸いです。
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